神の顕現に応える。

マタイ２：１−１２ 　明けましておめでとうございます。 ２００８年の最初の主日を迎えました。 　１月６日、教会の暦では、今日の主日は、「顕現日」という特別の日です。英語では「エピファニー」と言います。これはギリシャ語の「顕現、現れ、輝き、出現」という意味を持った「エピファニア」から来ています。とくに新約聖書の「エピファニア」には、キリストの出来事(誕生、活動、教え、招き、派遣、受難、死、復活等）によって、神がこの世に現れたのであり、これを信仰する人びとは、そのこと告白し、そして「神に」応える行動をとるよう呼びかけられてのだというメッセージが込められています。 　この教会の名前は、「桑名エピファニー教会」です。キリスト教の最もだいじな、中心となっているメッセージが込められた教会名であることを、もう一度思い起こしながら、この日を送りたいと思います。 　本日の福音書は、マタイ２章１節から１２節が読まれています。　クリスマス物語の中の有名な「東方から来た占星術の学者たち」の話です。 　「東の方から来た占星術の学者たち」というのは、古代ペルシャのゾロアスター教の司祭、占星術師、夢占い師だったのではないかと言われています。星占いをするために星空を観測していました。　そこで、「ユダヤ人の王として生まれる方が現れる」というお告げを受けて、はるばるユダヤの国のエルサレムまでやってきたのでした。 　マタイ福音書は非常にユダヤ的な考え(ヘブル思想)の影響を強く持った福音書ですが、このマタイが、ユダヤ人以外の人びとすなわち異教徒、異邦人に、まず、神のお告げがあったと言います。 　旧約聖書から見ますと、ユダヤ民族はアブラハムの子孫であり、神はアブラハムを通じまたモーセを通じてユダヤ民族の繁栄を約束されました。ユダヤの人びとは、自分たちは神によって祝福された特別に選ばれた民族であると信じていました。従って救いはユダヤ人にのみ与えられる、異邦人は罪人であり滅びて当然の人びとであると信じていました。 　ところが、「ユダヤ人の王が生まれる」という、とっておきの大ニュースは、ユダヤの国からははるかに遠く離れた東の方の占星術の学者たちに現されたのです。 　このことは、イエス・キリストの出現は、一民族一部族のために表されたのではない、ユダヤ人の思いを越えた世界をおおうすべての人びとを救う方であるということを示しています。 　東の方から来た占星術の学者たちは、神殿のある都、エルサレムに来て、その時の王、ヘロデを訪ね、「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです」と言いました。 　この当時のヘロデ王は、「ヘロデ大王」と呼ばれています。紀元前３７年から紀元前４年まで王の位についていました。ローマ皇帝に取り入り、これを笠に着てその地方一帯に絶大な権力をふるい、神殿を再建し、立派な宮殿を建てましたが、一方では住民に圧迫を加える王でした。ヘロデは生涯に１０人の妻をめとり、１５人の子供をもうけたといいますが、晩年は陰惨な権力争いが起こっていました。 　このような疑心暗鬼になっているヘロデ王の所に東方の学者たちが来て、「ユダヤ人の王、救い主としてお生まれになった方は、どこにおられますか」と尋ねたのでした。 　これを聞いて、ヘロデ王は、ユダヤの王が生まれるとなると、わたしはどうなるのだと不安を抱きました。エルサレムの人々も皆、同じように不安になりました。王は、さっそく祭司長たちや律法学者たちを皆呼び集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。彼らは「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています」言いました。 　ミカ書５章１節に記されている預言について語りました。 「ユダの地、ベツレヘムから指導者が現れ、イスラエルの牧者となる」と記されていますと言いました。 　そこで、ヘロデ王は占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確めました。さらに、「行って、その子のことを詳しく調べて、見つかったら知らせてほしい。わたしも行ってその方を拝みたいから」と言ってベツレヘムへ送り出しました。 　占星術の学者たちは王からベツレヘムと聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子が寝かされている場所、一軒の宿屋の馬小屋にたどりつきました。 　学者たちはその星を見て大いに喜び、家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられました。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げました。 　ところが、「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行きました。 　神は、ご自分の方からご自分を現されます。暗闇の中に稲妻が走るように、ちらっ、ちらっと、ご自身を現されます。 　先ほど読んで頂いた旧約聖書イザヤ書に、預言者イザヤは言います。(イザヤ60:1-2) 　　　起きよ、光を放て。 　　　あなたを照らす光は昇り 　　　主の栄光はあなたの上に輝く。 　　　見よ、闇は地を覆い 　　　暗黒が国々を包んでいる。 　　　しかし、あなたの上には主が輝き出で 　　　主の栄光があなたの上に現れる。 　この世は闇に覆われています。そこに神の光が射してきます。するとすべてが照らし出され、すべてのものがその光を受けて輝きます。神の栄光を受けます。私たちはその光を見て神を知ります。 　暗闇と光というと、私は小さい頃のちょっとした体験を思い出します。 　その一つは、和歌山県の山の中の小さな村で、私の父方の故郷なのですが、夏休みかなにかで遊びに行った時の経験です。夜、遅くなって、あぜ道を歩いて帰る時のことでした。四方が山に囲まれ、川が流れ、田んぼの中の細い道を歩いています。月も見えない、星も見えない、今にも雨が降りそうな真っ暗闇の夜道を、従兄弟か誰かに連れられて歩いています。鼻を摘まれてもわからないほどの真っ暗闇で何も見えません。足元に神経を集中させながら歩いている時、ピカッと稲妻が走ります。その瞬間、まわりの山々が見えます。川や畑も見えます。ほんとうに瞬間の稲妻の光が走る時、目の中に残像となって、まわりの景色が、目の奥に焼き付きます。何回かそのような稲光におびえながら帰りました。 　その時の体験が今も頭に残っています。神は、稲妻が辺りを照らすように、暗闇を裂いて、ピカッ、ピカッと光るように、私たちにご自分を現されるということと重なります。 　もう一つの経験は、やはり私が小さかった時、朝寝坊をしていると、締め切った真っ暗な部屋に、雨戸の隙間か節穴から、太陽の光が射し込んできたときのことを思い出します。 　真っ暗な部屋の中に差し込む光、サーチライトのようだなあと見ていると、その光のなかに、ホコリが舞っているのが見えます。昼間では見えない部屋の中の小さなホコリが、浮かび上がるように光に照らされてはっきりと見えます。その時は、こんなにホコリがある所で息をしているのだなあとぐらいにしか思いませんでしたが、暗闇に光が射すということから、神の光が射す所、人の心に光がさすと、ごみやホコリが浮かび上がるように、人の罪が浮かび上がるということと重なって思い出します。　皆さんも闇に光が射す光景は、どこかで何か経験しておられるのではないかと思います。 　ヨハネの福音書を書いた記者は、イエス・キリストがこの世に来られたことをこのように言いました。 　「言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。 　 光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。 　 その光は、まことの光で、世に来てすべての人を照らすのである。」 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(1:4,5,9) 「光が世に来たのに、人々はその行いが悪いので、光よりも闇の方を好んだ。それが、もう裁きになっている。悪を行う者は皆、光を憎み、その行いが明るみに出されるのを恐れて、光の方に　　来ないからである。しかし、真理を行う者は光の方に来る。その行いが神に導かれてなされたということが、明らかになるために。」 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(3:19-21) 　ヘロデ王は、ほんとうの光がこの世に来ると知らされた時、不安を抱きました。恐れを感じました。この世の栄耀栄華を得、権力をほしいままにし、人を苦しめることは何とも思わない。そのような王が、一人の幼子の出現に恐れ、不安を感じ、びくびくしています。　その結果、ベツレヘムとその周辺一帯にいた２歳以下の男の子を一人残さず殺させるという、残虐な行為におよびました。威張ってふんぞり返り、暴力をふるうことはできても、心の中では、小さな幼子の出現によって、地位、名誉、力が奪われるのではないかと恐れました。まさにその心は暗闇の状態です。しかし、そこに射し込む光を受け入れようとはせず、これをなき者にしようと考えました。 　さて、今日は顕現日、神がこの世に、私たちにご自分の方からご自分を現される方であるということを、心に深く思う日です。 　神は、今も私たちにチラッ、チラッとご自身を現されます。私たちはこの光を、神が送って下さる信号をちゃんと受け取っているでしょうか。私の経験からしますと、ほんとうの真っ暗闇の中では、光がよく見えます。際だって見えます。しかし、明るい所ではほんとうの光が見えにくくなってしまいます。 　昨今、夜になっても、私たちのまわりにはほんとうの暗闇がなくなってしまいました。夜、目が覚めて部屋の中を見回しても、どこかで何かが光っています。どこかから電気の光、人口の光線が光っています。夜道も街灯がついています。都会や町中ではとくに、暗闇を失ってしまいました。 　このことは、私たちと神の関係を象徴しています。神から出るほんとうの光をしっかり受け止め、しっかり照らし出されなければならないのに、人口の光、電気の光があるために、ほんとうの光が見えなくなってしまっているような気がします。偽の光に目がくらんで、ほんとうの光が見えない、いや必要がないと思ってしまっています。 　イエスは言われました。 　「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩かず、命の光を持つ。」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ヨハネ8:12） 　ほんとうの光を知るためには、ほんとうの暗闇を知らなければなりません。 神は、この世にイエス・キリストをもって、ご自分のすべてを現して下さいました。私たちは、この光をしっかり受け取りたいと思います。 　　　　　 〔2008年1月6日　顕現日　桑名エピファニー教会〕